【絶望から希望へ:神戸刑務所編】担当部長は、奇人変人されど熱い心と人間味あるヤツだった!《さかはらじん懲役合計21年2カ月》
凶悪で愉快な塀の中の住人たちVol.34
人は絶望からどう立ち直ることができるのか。
人は悪の道からどのように社会と折り合いをつけることができるのか。
元ヤクザでクリスチャン、今建設現場の「墨出し職人」さかはらじんが描く懲役合計21年2カ月の《生き直し》人生録。カタギに戻り10年あまり、罪の代償としての罰を受けてもなお、世間の差別・辛酸ももちろん舐め、信仰で回心した思いを最新刊著作『塀の中はワンダーランド』で著しました。実刑2年2カ月!
じんさん、今度は神戸刑務所に3年間お世話になります。西の塀の中はお笑い劇場なみの面白さ。どん底でもどこか明るいそんな生活に気持ちが明るくなってきました。希望は、そんな「小さな面白さ」から育っていくような感じかもしれません。
■今度のオヤジ、なかなかオモロイ担当やで
ボクが三級になってしばらくすると、工場の担当部長が代わった。新しい担当部長は、あの新入訓練工場にいた熊田という名前の、『嗚呼!! 花の応援団』の主人公を彷彿とさせる面白い部長だった。
この担当部長が来ると、今まで陰々滅々として暗かった工場の雰囲気が、あっという間に明るくなり、懲役たちも溌剌とし始めた。
それまでの悪習が一掃され、爽やかな空気が流れ出すと、
「今度のオヤジ、なかなかオモロイ担当やで。工場も明るくなったし、配食の盛りつけも公平に盛りつけるように配食夫に言うてるようやし、いいのとちゃうか」
という具合になり、大方の懲役は肯定的だった。しかし、前の担当にズケ(受け)がよかった懲役たちは、決まって否定的だった。
ボクは前の担当から、「サカハラを機械場に就けようと考えておるのやが、お前、独居へ行かんか?」と言われたが、独居が苦手なボクは断っていたという経緯がある。
そんなことからなのか、この頃のボクは紙折り班から最も忙しいセクションに移っていた。そこは単純な紙折り作業に少し毛の生えたような作業内容だったが、いかんせん目が回るほど忙しかった。だから〝お日さん、西、西〟でボケッと一日を過ごすことを決めているような懲役では、とても務まらない。
このセクションでも、ボクは他人の分も手伝うほどに能率的な方法で忙しくしていた。
あるとき、そんな姿を見ていた担当部長が、ボクの役席へ来ると、ニコニコしながら、
「サカハラ、お前はよう働くのう。この工場の働き頭や。ホンマにようやりおるなァ。ワシは感激したぞ。お前はこの工場で一番の稼ぎ頭やァ!」
と、目ん玉をギョロつかせ、工場中に聞こえるほどの奇声を上げた。
ボクは今までいくつもの刑務所を経験してきて、ずいぶん変わった個性の強いオヤジ(担当部長)たちを見てきていたが、こんなに規格外れのパーソナリティを持った変なオヤジと出会ったのは初めてだった。
この担当部長は、朝、印刷工場の兵隊(懲役)たちが工場へ出役して行き、着替えを終えて検身所から工場内へ出て来ると、その一人ひとりの動きを元新入訓練工場の担当らしく、担当台の上から監視している。
そして兵隊がもし、ボタンをかけながら、だらしなく整列場所へタラタラと歩いて来ようものなら、それを見咎(とが)めて、「こらァ! 歩いて来る前にきちんとボタンをかけんかい! それとなんや! お前のそのクネクネした歩き方は! えッ、いつからお前は明石のタコになったんや! きちんと手え振って行進せいやァ! 元の場所からやり直せ!」と、思わず笑ってしまうような台詞で大喝するのだった。
整列場所まで腕を上げ、脚を上げて行進していかないと、必ずこうやって怒られ、また時には、「こらァ! 何やその歩き方は。お前、今からロボットや。ロボットにならんかい! そしてもっと腕を上げ、脚を上げて歩かんかい! お前は今からロボットやァ! わかったか! ロボットになるんやァ!」と、規格外れの担当は朝からテンションを上げ、つい口を開けて笑ってしまうような言葉を連発するのであった。そして時には、「よう、見とけや!」と、自分がロボットになって、行進の手本を見せたりもするのであった。
さらに朝の天突き運動になると、工場を半分に割った兵隊同士で声を掛け合って、「ホィッサ!」「ホィッサ!」とやっていると、担当部長もどさくさに紛れて、「うわー! うわー!」と両手を突き上げて一人、雄叫(おたけ)びを上げているのだった。
新入訓練工場で声を張り上げる癖がついていて血が騒ぐのか、それともストレスの発散をするためなのかはわからないが、仕事中でも突然ボクの役席の後方で、気が狂ったようにして大きな口を開け、額の血管を浮き上がらせて、「うりゃー!」と吠えることもしばしばだった。
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2020年5月27日『塀の中のワンダーランド』
全国書店にて発売!
新規連載がはじまりました!《元》ヤクザでキリスト教徒《現》建設現場の「墨出し職人」さかはらじんの《生き直し》人生録。「セーラー服と機関銃」ではありません!「塀の中の懲りない面々」ではありません!!「塀の中」滞在時間としては人生の約3分の1。ハンパなく、スケールが大きいかもしれません。
絶望もがむしゃらに突き抜けた時、見えた希望の光!
「ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜」です。
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